新潮45の休刊を招いた「杉田論文問題」が示す、皇位継承の危機とは

「新潮45」8月号誌上で特集された朝日新聞批判の一本である杉田水脈氏の「LGBT支援の度が過ぎる」とする論文が物議をかもした。

当該論文を巡っては人権団体からの猛烈な抗議を受けて、一部右派を標榜するメディア・論客からも苦言を呈されたものの、いわゆる保守派の動向は杉田氏に対する抗議が言葉狩りや杉田氏個人の人格を攻撃するものに終始しているとして、これを擁護する事でほぼ一貫していた。

ただ、これに関して新たに杉田論文を擁護する特集をした同誌10月号が出版社内でも、その内容が問題視され、新潮社社長が声明を出し、遂には同誌が休刊(実質的な廃刊)に至るなど、異様な事態となった。

婚姻の形が激変しつつある

杉田論文に関する是々非々をここで問う力量を筆者は持たぬので据え置くが、いわゆるLGBTの問題がここまで白熱した背景から、昨今の皇位継承論論争に大きな落とし穴があると感ずる。

すなわち、当該問題がここまで大きな波紋を呼んだ背景には、過去の男性観・女性観ひいては婚姻の形が大きな過渡期を迎えていることに起因しているからであろう。

しかしながら従来の皇位継承論論争の中身を見るに、その過去の価値観が未来永劫続く事を前提としている感が強い。

たとえば、現今の皇室典範では「皇位は,皇統に属する男系の男子たる皇族が,これを継承する」とあるが、これを墨守するには、この「男系の男子」が「その性別が医学的に出生に基づくもの」であり、かつ「性自認が一致」する「男系の男子」である事が必須となる。

これは突飛な感を受けるが、性差による役割を当然の如く単純に二分する理論が正確でないと感ずる価値観が生まれているからこそ、あそこまで杉田論文が炎上したのではないか。

歴史に見る「性」の問題

歴史的に見れば、後白河法皇が男女両色すなわちバイセクシャルであったことをにおわせる史料が存在する。また、瀧浪貞子氏は孝謙女帝が女性でありながら政治的には男帝としての役割を担ったとしているが、これは「出生時の性同一性を欠いている状態」と考えられなくもない。

加えて、伝承の域を出ないが、ヤマトタケルのクマソ退治や先帝陛下が御幼少の頃、魔除けのために少女の洋服を着用なされたことなど、今日で言う性的少数派の記号が散見される。そして、今後、同様の事例が現れないという保証はない。

もちろん、記号として想起されるものがあるからといって、LGBTの権利拡大活動と皇族のあり方は基本的に別次元の問題である。ただ、皇位継承問題も突き詰めれば男女の性差の問題であることから男系を固守するにせよ、女系の可能性を探るにせよ多少なりとも考慮すべき問題であろう。

皇室の晩婚化と高齢化

同時に皇位継承は当然ながら男女の婚姻を前提としているが、性の多様化とも結びついた婚姻関係の変化についても考えなければならない。

御存知の通り昨今の超高齢化、少子化と並んでかつて予想もつかなかった(筆者も他人事ではないが…)晩婚化が進んでいる。

それと同時に共働きが進むなかで、子どもを生むことよりもキャリアを優先する女性が「DINKS」(Double Income No Kids=共働きで子どもなし)や、お互いのキャリアのために住居を敢えて夫婦で異にする「週末婚」といった新たな婚姻形態も増えている。

また母にはなるが、妻にはならない(ないし、諸事情によりなれない)ために、母子家庭を自らの意思で選ぶ「選択的シングルマザー」など家族のあり方にも大きな変化がみられる。

言うまでもなく、一般の家庭と皇室では婚姻の事情は異なる。けれども、「事情が異なる」と声高に叫べば影響を免れるということはない。

不敬を承知で申し上げると、現時点において独身である女性皇族の方々の中には、これから御成婚となっても子女を授かるには大変な苦労をなさるであろう年齢に達せられた方もいらっしゃる。

恐れながら申し上げれば、晩婚化の流れは皇室にも影響を及ぼしているのだ。超高齢化、少子化についても同様である。

そして、このまま超高齢化、晩婚化が進めば、次々代の天皇陛下がどちらかの性であれ、独身のまま、かつお子様を望み難い御年齢での即位ということも懸念される。

不安定化する皇位継承

皇太子妃を決めるだけでも多大な困難を要した過去があるにもかかわらず、一足飛びに天皇陛下の配偶者をお選び頂くとなると、その容易ならざることは想像を絶する。

その場合、仮に配偶者選びが円滑に進み、めでたくお世継ぎに恵まれたとしても、高齢出産である事に変わりはない。

そうなると、考えたくないことではあるが、その次の時代には、極端に御幼少のまま新帝が即位される可能性も出てくる。

これでは、安定的な皇位継承は望めない。

以上、杉田論文に触発される形で、婚姻関係の変化が皇位継承にもたらす影響について私見を述べてきた。

ここでは皇位継承問題におけるいわゆる男系・女系どちらか一方の価値観を押し付けるつもりはない。

ただ、昨今の男女の性差における役割、ひいては婚姻関係が変化する中で、これまでの延長線上で議論を行っても「安定的な皇位継承」という目的を実現することは難しくなってきているのではないかという懸念を拭うことができないのである。

三浦充喜(みうら・みつき)/愛知県出身。文学修士。現在は会社員のかたわら、日本国体学会会員。

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