【書評】吉川圭一『サイコ型テロへの処方箋』(近代消防新書)

我が国では、東アジア反日武装戦線による連続企業爆破事件〔昭和49年(1974)~昭和50年(1975)〕やオウム真理教による松本および東京におけるサリン散布事件〔平成6年(1994)~平成7年(1995)〕などを除き、政治的・宗教的動機に基づいて一般市民を標的とするテロ事件が発生していない。

そのため、欧米における大規模テロ事件のニュースに対しても他人事として捉えがちだ。

確かに、政治的・宗教的動機に基づくテロは少ないにしても、そうした動機に基づかぬ大量殺人事件は何度も起こっている。

ここ10年に限っても、秋葉原歩行者天国における通り魔事件〔平成20年(2008)〕、神奈川県相模原市の障害者施設における大量殺害事件〔平成28年(2016)〕、神奈川県座間市における自殺志願者大量殺害事件〔平成29年(2017)〕など世間の耳目を集めた事件は少なくない。

こうした事件の犯人は精神を病んでいることが多く、異常者による特異な犯罪として片付けられてしまうが、見ず知らずの他者ひいては社会に対する敵愾心の発露という点では、政治的・宗教的テロも精神異常者による大量殺人も変わりはなく、両者は「サイコ型テロ」と総称し得るのではないか。

本書は、そうした斬新な視点に基づき、インターネットという人間の思考をデータ化するツールを活用することで、テロや大量殺人を事前に阻止することが可能だとする意欲作。

もちろん、それはプライバシーの秘匿という人権至上主義的主張とは相反するが、社会の安全と比して何れか重要かと筆者は挑発的な問いを投げ掛ける。

その何れを選択すべきか、本書を読みながら皆さんにも考えて頂きたい。

『サイコ型テロへの処方箋』(近代消防新書)
著者:吉川圭一
発売日:平成30年10月10日
インターネットの検索履歴や購入履歴から、大量殺傷事件を未然に防ぐ新たな仕組みとは−。警察、通信事業者、精神病理学専門家等へのインタビューを基に、「テロ問題」に関する新しい処方箋を提案する。

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