去る六月二十三日、イギリスにおいて欧州連合(EU)離脱の是非を巡る国民投票が行はれ、離脱支持が五十二パーセントの支持を集めた。この結果を受け、残留を主張してゐたキャメロン首相は辞意を表明し、世界各地の株式価格も大きく下落した。
確かに、ロンドンのシティを拠点とする金融機関、あるいは欧州連合向けの事業本部をイギリスに置くグローバル企業からすれば、欧州連合といふ市場に背を向けることは損失と云へるであらう。けれども、イギリス国内には、日本など欧州連合加盟国以外の各国と同等の扱ひとなるだけで商業活動が全面的に禁じられるわけではないし、イギリス連邦加盟国など他に活路を求めればよいとの意見もあるやうだ。
第二次世界大戦からの復興に際し、フランスや西ドイツなど六ヶ国が欧州石炭鉄鋼共同体を結成してから六十有余年。冷戦終結後、西欧諸国に限られてゐた加盟国は東欧諸国にも広がり、一九八五年には域内の商品・サービス・人間の自由な移動を保証するシェンゲン協定が締結され、さらに統一通貨ユーロが生まれた。
しかしながら、さうした超国家機関の権限拡大は各国が有してきた主権の喪失に繋がる。その上、その政策は欧州委員会に所属する一部のエリートによつて決定され、また、フランスの歴史学者トッドが「ドイツ帝国」と評するやうに域内最大の経済大国であるドイツの意向に左右されることが多い。
かうした状況に対する庶民の潜在的不満が、移民の大量流入を契機として欧州連合離脱支持といふ形で現れたのだ。さうである以上、今回の投票結果は行き過ぎたグローバル化に対するイギリス国民の反撃として積極的に評価すべきであり、我が国の経済的損失を云々したり、悪しき衆愚政治として矮小化したりする議論に与すべきではあるまい。
(金子宗徳)