拝啓 第8代 沖縄県知事 玉城デニー閣下

貴県を緊急事態宣言の対象に追加することに反対します。

コロナ禍の最中ですが、閣下におかれてはご健勝のことと存じます。

小生は在野にて上皇陛下の被災地や貴県に対する想いを通じ「皇室の公的行為」を研究する国体学徒であります。

閣下におかれましては内地と貴県の紐帯を考える上で、『AERA』(19年3月11日号)や県議会(19年2月25日)などで上皇陛下の叡慮に着目しておられました。これらの視点は国体学徒としても遺憾なきものであり、閣下が稀有な政治家であることは承知しております。

しかしながら、閣下が政府に対して貴県を緊急事態宣言の対象に追加することを要請した事には政治的にも思想的にも反対せざるを得ません。

科学的根拠も民意も基にしていない政策は下策

始めに政治的な面から2つ反対する理由を申し上げます。まず緊急事態宣言の対象に追加を要請した理由は、医療ひっ迫の恐れとそれに伴い飲食店への時短要請等より強い措置を行うためだと推察されます。しかしながら、この因果関係がどうにも納得しかねます。恐らく巷で言われる「感染のリスクである人との接触を減らし、感染者(正確には『検査陽性者』)を抑制する。その効果は2週間後に現れる」という理論に従ったものかと思われます。しかし、この理論はまず2週間前の人流と感染者数に相関性が認めらなければならないと思われますが、小生がNHKのデーターベースから沖縄における検査陽性者の推移をグラフ化したところ5/15~18日の間に大きな「谷」がありました。これを上記のような理論に従い2週間前にスライドさせますと、丁度5月の連休中に収まります。勿論、人の流れを正確に把握することは困難ですが、少なくとも連休中にこのような極端な人流の「谷」が出来るとは考えづらく、人との接触と感染者に相関性があるとは思えません。更に言えば、この様な品質管理でいうところの「バラツキ」が生じているデーターを元に政策を決める事自体「データーを使う」のではなく「データーに使われている」感が拭えません。(逆に言えば5/21の記者会見で閣下は大型連休前に強い措置を取らなかった事を謝罪しましたが、行政の強い措置で感染を抑え込む事自体が不可能で、これは全く無用の謝罪であったと考えています)

次いで医療ひっ迫を回避するために飲食店にしわ寄せが来る事に対する有権者の感情です。ご存じの通り、この1、2ヶ月の間に厚労省の宴会や医師会・中川会長の逢瀬など、言わば国民に自粛を呼びかけた側が「感染リスク」の場に出かけている事が明るみになり(失礼ながら、その点閣下にも襟を正して頂きたく存じます)、単純な怒りと共に「自粛の効果」への疑問が生じているとしか思えないのです。この様に有権者の反発が簡単に予想される政策を(しかも実は科学的根拠が乏しい中で)遂行する事は得策とは思えません。

縦に受け継がれた思想が分断される恐れ

続いて思想的に申し上げれば、この様に特定の産業を犠牲にすることは、9.11直後にあれだけ窮地に立たされた観光業を官民一体となって守ってきた事への裏切りとしか思えません。あの当時、米軍基地が集中している沖縄がテロの標的になる事を懸念し、内地からの観光客が冷え込む中にあって当時那覇市長であった故・翁長雄志氏は全国市長会の開催地を那覇市に誘致するなどして対応にあたりました。言わば安全をアピールすることで産業を守ろうとした先人に対して、閣下が危険をアピールして特定の産業を締め付けるのは思想的に受け入れがたいです。

さらに思想面から深めていきますと現在の「経済か命か」の二者択一は、まさに沖縄が抱えてきた「基地か平和か」の白黒闘争に酷似しているように思えてなりません。コロナ禍以降、どうも「経済」という言葉が拝金主義的な意味で一人歩きしていますが元々は「生活に必要な物資を生産、分配、消費する行為」(戸川芳郎監修『漢辞海』)を指す言葉であり、その行為を行う「場」と「動機づけ」して「産業」と「生きがい」があるからこそ、「誇りある豊かさ」が可能になると理解しております。しかし、現場の医療従事者の賢明な努力に報いる事の出来ない医療行政の怠慢のツケを経済界に回す事は「誇りなき貧困」への片道切符だと思わざるを得ません。

医療崩壊は医療行政で回避可能

とは言え、「経済と命」の両立を主張した以上は、命(=医療)についても私見を述べる必要があると思います。本来であれば国会が医療崩壊を防ぐ仕組みづくりを主導すべきですが、現場単位でも出来る努力はあります。手前味噌ですが『Newsweek』2021年3/2号に小生の地元、名古屋大学医学部附属病院の事例が掲載されております。詳細は当該記事に譲りますが、端的に言えば、このコロナ禍を災害時と捉え、通常医療を100%維持する発想を捨て、力量的には0.8人でも他科の医師が応援に入れる体制をつくりマンパワーを確保し、官民問わず病院ごとに役割を明確にして地域全体を「総合病院」化するというものです。

この様な取り組みは基本的な部分は沖縄においてもコロナ以前より着手されているかと思われますが、これを機に閣下が先頭に立ってより強力に推進していくべきかと思われます。そして、沖縄にはそれを可能にする基盤があると思われます。第一に貴県は他の都道府県と比べても県民の地域への帰属意識が高く、協力体制を組みやすいと思われる事。第二に近年、貴県は通信産業で目覚ましい発展を遂げており、必要な知見を(離島も含めて)迅速に共有する事が可能であると思われる点。第三に敢えて申し上げれば、祖国復帰以降の沖縄県政の抱える歴史を鑑みれば、このくらいの難題を乗り越えられる体力は官民ともにあると思われる事。以上、心技体の面からも医療ひっ迫は県庁と医療現場、産業界の能動的な努力で国に頼らずとも回避出来るものと考えています。

終わりに

以上、閣下の政策に対して愚見を述べさせていただきました。「県民の父」である知事に対して言葉が過ぎた面もあったかもしれません。

しかしながら、沖縄県政の足元が揺らぐ事は、内地と沖縄の紐帯が揺らぐ事にほかならず、一国体学徒として看過しがたく筆を執ったしだいです。閣下におかれましては小生の愚見より、何か一つでもくみ取って頂き、「一人(ちゅい)助(たし)き、助(たし)き」(一人一人が助け、助け合う)の精神を県政に反映させてくだされば幸甚の至りです。

敬具

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