大統領選挙の異変が示すアメリカ社会の転機

「国体文化」平成28年3月号 巻頭言

 アメリカ大統領選挙で異変が生じてゐる。共和党では全く政治家としての経歴がない実業家のトランプが、民主党では上院議員でありつつも党内傍流のサンダースが台風の目となつてゐる。

 彼らが国民の広汎な支持を集めてゐるのは何故か。両者の政策を概観してみよう。「民主社会主義者」を自認する後者はイラク戦争に否定的で、不法移民の流入にも寛容だ。また、経済格差の解消を前面に打ち出し、TPPに反対するなど自由貿易に疑問を投げ掛けてゐる。一方、「偉大なアメリカを再び」と主張する前者は軍事力の強化を唱へ、不法移民に対して冷淡な姿勢を示す点こそサンダースと異なるが、TPPについてはアメリカ人の雇用を奪ふものであるとして批判的であり、中流階層に対する減税を公約するなど経済格差の問題にも敏感だ。

 このことから何が見て取れるか。国家主義的(トランプ)か社会主義的(サンダース)かの違ひは見られるものゝ、国境を越えて行はれる自由な経済競争よりも国民共同体内部における公正な分配を求める国民世論が高まつてゐると考へるのが自然だ。その背景には、経済格差の著しい拡大があると思はれる。国民総人口の僅か一%に過ぎないウォール街金融エリートなどが国民総資産の四十%を所有してゐる。このやうな寡占状態が続く限り、「努力すれば成功する」といふアメリカン・ドリームを説いたところで、取り残された九十九%にとつては絵空事であり、「持てる者」の自己弁護としか聞こえないだらう。

 トランプやサンダースが大統領候補に選ばれ、ひいては大統領に当選するかは分からない。だが、アメリカ社会の経済構造が変はらぬ限り、新たな異議申立者が生まれるだけだ。その点において、アメリカ社会は大きな転換点を迎へてをり、我が国も「他山の石」とせねばならない。
(金子宗徳)

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