誰のためのオリンピック?

「国体文化」平成28年7月号 巻頭言

古代ギリシャのオリンピア大祭に倣つて近代オリンピックが行はれるやうになつてから百二十年。第三十一回夏期大会はブラジルの首都・リオデジャネイロで開催される。史上初めて南アメリカ大陸で実施されることは意義深いが、ブラジルの経済は低迷しており、大統領の弾劾裁判が始まるなど政治的混乱も終はる様子を見せない。その上、治安は極めて悪く、関連施設の建設や交通機関の整備も遅れてゐるやうだ。挙げ句の果てには、小頭症の原因とされるジカ熱も流行してをり、一部の研究者が開催を延期するか開催地を変更するやう求めるなど、両手を上げて歓迎できない。

二年後の冬季大会は韓国・平昌、四年後の夏季大会は東京、六年後の冬季大会は北京と決まつてゐるが、降雪量の少ない平昌や大気汚染の進む北京で果たして開催できるのか。平昌に至つては、会場建設費の分担を巡る中央政府と地元の対立を背景として関連施設の建設が遅れてをり、日本との共催すら囁かれてゐる。東京にしたところで、新国立競技場や公式紋章を巡る騒動、さらには招致活動を巡る贈収賄疑惑など醜聞が尽きない。

かうした開催を巡る問題が生ずるのは、オリンピックが利権化してゐるからだ。ロサンゼルス大会を契機としてオリンピックが商業化する中で、スポンサー料や放映権料として莫大な金銭が動くやうになつた。それらの大半は、IOCを始めとするスポーツ関係者のみならず、マスメディアや広告代理店、さらにはコンサルタントなどの懐に入る。世界中を巻き込んだスポーツ・ショーの後に残るのが奇抜な建築物と莫大な借金だけであるなら、どうして日常生活を犠牲にしてまで開催せねばならぬのか。
(金子宗徳)

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