『日本(書)紀』をめぐる諸問題 ― 藝林会がオンラインで学術大会〔10月25日〕

10月25日、平泉澄門下を中心とする藝林会の学術大会が「『日本(書)紀』をめぐる諸問題」と題して、オンラインで開催された。このテーマが設定されたのは、本年が『日本(書)紀』成立1300周年にあたるため。開催場所も、「成立の地」である平城京に因んで奈良女子大学を会場を予定していたが、コロナ禍のため対面方式での開催が困難となり、最終的にはオンラインによる開催となった。

まず、所功氏(京都産業大学名誉教授)による開催挨拶。『日本(書)紀』という表記について、平泉が一般的な名称である『日本書紀』ではなく、本来の書名である『日本紀』と呼ぶべきと力説していたことを踏まえたものであると解説。また、学術誌の発行に留まることなく、会員が一堂に会して討論し、学説を深めるという学会の役割を改めて確認する。

次いで、岡田登氏(皇學館大学名誉教授)による記念講演「考古学と『日本書紀』から見る大倭(日本・やまと)国家成立」。稲作・機織・金属器など物的要素に関わる日本神話の記述と弥生文化に関する考古学の研究成果との関連性を丁寧に解説された。

続く研究報告は、若井敏明氏(関西大学非常勤講師)による「古代国家形成史研究における『日本書紀』の価値」、中野高行氏(慶應義塾大学非常勤講師)による「『日本書紀』の描く国際関係像」。

若井氏の報告は、『日本書紀』を政治的文献であるとして史料的価値を貶める一方、その記述内容に基づいて「王朝交代説」を主張する学派における、「疑いながら依拠している」というダブル・スタンダードに切り込むもの。

中野氏の報告は、『日本書紀』の推古朝~持統朝における外交を巡る記述について、「帝国性」(大国意識)の論理で説明出来るのではないかとの視点に立ち、朝鮮側の史料との比較を試みる。その上で、『日本書紀』および百済三書は、共に誇張は多いものの、先行研究に依拠しつつ「誇張」と「虚偽」を区別し、一定の歴史事実を含んでいると評価。そして、そうした史料の記述からして、百済の王位継承に大和王朝が干渉していた史実が認められることなどから、倭国の「帝国性」を立証され得ると結論づけた。

休憩を挟んだ後は、相互討論。今回はオンラインという制約上、登壇者による補足説明と相互の質問に対する応答が中心となったが、現今の『日本書紀』の史料的価値を低く見る傾向は先入観に囚われ過ぎたものであるという点で。そして、討論の総括において、こうした風潮の中で孤軍奮闘してきた故・田中卓博士の研究が有する意義を所氏が改めて強調した。

閉会の辞は、同会会長の平泉隆房氏より、来年度の大会は「承久の変」より800年である事から「承久の変の諸問題」をテーマとするが、コロナ禍の終息時期が見通せないことから本年と同じくオンラインでの開催となることなどが告知された。

なお大会の様子は、同会のホームページ上で公開される予定という。〔三浦充喜〕

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