「キシダママ」とは如何なる人か? ― 京都で民族文化研究会〔11月16日〕

11月16日午後、貸会議室オフィスゴコマチ(京都市)にて、民族文化研究会関西地区第19回定例研究会が開催された。

報告者は、半木糺氏。「『キシダママ』岸田袈裟の活動紹介——『保守』の新たな可能性を探る」と題し、ケニアで長年に渡ってボランティア活動を行った岸田袈裟の活動を手がかりに、保守思想の新たな在り方を検討した。

栄養学者である岸田は、ケニアに移住し、国際協力機構(JICA)メンバーとして、長年に渡ってボランティア活動を行い、現地では「キシダママ」と呼ばれ、慕われてきた。岸田は、現地の衛生環境の改善を目標としたが、まず着目したのが、調理環境の不衛生性だった。ケニアの農村では、地面に石を置き、そこで焚火をすることで調理を行っていたが、衛生面で問題があり、危険だった。

しかし、近代的な調理設備を普及させるのは困難で、岸田は故郷である岩手県遠野市で使用されていた竈を参考に、現地で作製できる竈を考案し、これを広めた。この竈は、「エンザロ・ジコ」と呼ばれ、ケニアだけでなく隣国のウガンダやタンザニアにまで普及することになった。この他にも、岸田は草履や日本式の蚊帳も導入した。竈と同じく、現地の材料で作製でき、衛生環境の改善に大きく貢献するものである。

本報告では、こうした岸田の活動は、保守思想の新たな在り方を示すものだとされる。これまで、保守思想は、伝統を教条的に擁護しようとする、頑迷固陋なものだとされてきた。しかし、保守思想は、何かを守るだけではなく、それを元に新たな世界を創造する営為だと指摘される。そして、岸田の活動は、こうした歴史的に蓄積されてきた文化を生かし、新たな世界を創造する営為だとされる。

岸田は、竈や草履の作製法を、郷里である遠野の古老から教わったが、これらは現代日本では忘却された文化だった。しかし、岸田の手を通し、遠いアフリカの地に伝えられることで、新たな役割を与えられ、ふたたび世界を創造することができた。こうした岸田の活動を元に、伝統を教条的に擁護するだけではなく、それを元に新たな世界を創造することを標榜することこそ、保守思想の新たな可能性だとして、本報告はしめくくられた。

その後、里見岸雄『討論天皇』の輪読を行った。今回も活発な質疑応答が行われ、盛会だった。〔湯原静雄〕

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