大東亜戦争前のアメリカには、「アジアの安定勢力たる強い日本」を望む共和党など非干渉派と「アジアを混乱に導いてゐる日本の弱体化」を目指す民主党など干渉派が存在した。一九三三年に大統領となつたルーズヴェルトは後者に属してをり、日本を対米戦争の已むなきに追ひ込んでいくが、その背後ではコミンテルンが暗躍してゐた。さうしたコミンテルンの動きを、アメリカにおける最新の研究動向を踏まえつゝ明らかにしたのが本書であり、非常に興味深い内容であつた。
世界革命を目指すコミンテルンは、反共政策を推進する日独を打倒すべく、英独間および日米間の対立を煽り立てて戦争へと導き、日独を敗戦に追ひ込まうとする。このやうな目論見に基づいてコミンテルンはアメリカにスパイ網を築き、その工作はルーズヴェルト政権の中枢部に及んだ。
大東亜戦争末期、ルーズヴェルトが急逝し、トルーマンが大統領に就任する。当初は前任者同様の考へに囚はれてゐたトルーマンだつたが、大東亜戦争敗戦後の国共内戦・朝鮮戦争を目の当たりにして、ソ連に対する警戒心を強め、日本を「反共の防波堤」として育成すべきと方針転換する。
ほゞ、これと時期を同じくして、コミンテルンによるスパイ網の存在がマッカーシー上院議員によつて告発される。彼の告発はトルーマン政権やリベラル派のマスコミによつて事実無根とされたが、NSA(国家安全情報局)・FBI(連邦捜査局)・CIA(中央情報局)の調査に基づく「ヴェノナ文書」が一九九五年に公開された結果、スパイ網の存在が実証された。
加へて、江崎氏はコミンテルンの意を受けたアメリカ共産党の動きに着目し、世論の誘導を狙ふ彼らがキリスト教団体やマスコミ・出版社に浸透していく経緯を辿る。その上、さうした動きは今日に至るまで続いてゐるとも指摘。
最後に一つだけ注文めいたことを。本書の末尾で、江崎氏は日米戦争の再検証における五つの視点を列挙するけれども、コミンテルンの謀略に着目するのであれば、我が国に限ることなく、反共の理念を共有してゐたドイツやイタリアなど枢軸国の戦ひ全体に目を向けることも必要になつてくるのではなからうか。
(金子宗徳)[PDF]
(「国体文化」平成28年11月号所収)
江崎 道朗 著『アメリカ側から見た 東京裁判史観の虚妄』
▼祥伝社
▼平成28年8月31日発行
▼本体価格 八〇〇円
▼ISBN 978-4-39611-481-7