【書評】『八紘一宇 日本全体を突き動かした宗教思想の正体』

島田裕巳 著『八紘一宇 日本全体を突き動かした宗教思想の正体』

島田裕巳著『八紘一宇 日本全体を突き動かした宗教思想の正体』

 島田裕巳という「宗教学者」を御存じだろうか。オウム真理教について「仏典の研究や修行に打ち込み、仏教の伝統を正しく受け継いでいる真摯な教団である」と評した御仁である。

 その島田が、『八紘一宇』と題する新書を出した。副題には「日本全体を突き動かした宗教思想の正体」と銘打ってある。いったい如何なる内容かと読んでみたのだが…。

 この本の中で、島田は田中智學・宮沢賢治・石原莞爾・北一輝・井上日召・江川桜堂(死なう団)・戸田城聖などについて言及している。彼らが日蓮から大きな影響を受けたことは確かであるにせよ、「八紘一宇」思想と直接的な関わりを有するのは造語者である智學を除けば石原しか居らず、「日本全体を突き動かした宗教思想」が「八紘一宇」なのか「日蓮主義」なのか、読者は混乱する。

 さらに云えば、智學の著書など一次資料を丹念に読み込んだ形跡は見られない。本会について「日本国体学会は現在も存続し、機関誌である『国体文化』の平成27年5月号では、……『八紘一宇を考える』という特集を組んでいる」と述べているものの、当該号に抄録した一次史料を読んだのか。

 また、二・二六事件当時の石原に関して「参謀本部作戦課長として、叛乱軍鎮圧の先頭に立った」と記すが、筒井清忠らの研究により石原は青年将校らの意を汲む形での事態収束を模索していたことが明らかになっている。

 看過できないのは、SGI(創価学会インターナショナル)について「戸田が国立戒壇という言葉を借用した智学(ママ)の八紘一宇の思想が生きているのかもしれない。その点では、八紘一宇の思想は、戦後も生き延びたと見ることができるのである」と論じている部分だ。「かもしれない」や「見ることができる」という表現から窺えるように、これは実証なき憶断に過ぎぬ。

 要は、三原じゅん子参議院議員の「八紘一宇」発言に便乗し、先行研究(二次史料)を引き写して思い付きの論評を付しただけの代物である。(八月四日脱稿)

島田裕巳 著『八紘一宇 日本全体を突き動かした宗教思想の正体』
▼幻冬舎新書
▼平成27年7月30日発売
▼本体価格  八〇〇円
▼ISBN 978-4-344-98383-0

(「国体文化」平成27年9月号所収)
 

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