トランプといふ黒船

「国体文化」(平成28年12月号)巻頭言

アメリカ大統領選挙において、共和党のトランプが民主党のクリントンを抑へて当選した。事前の報道ではクリントン有利とされてゐたにもかかはらず、いざ蓋を開けてみれば、民主党の牙城とされてきた中西部の各州でトランプが勝利したゝめだ。

デトロイトを中心とする中西部はアメリカ経済を支へた工業地域だが、経済のグローバル化に伴ひ工場の海外移転相次いだため衰退し、ラストベルト(錆の帯)と呼ばれてゐる。また、メキシコからの不法移民流入を防ぐため国境に壁を作るといふ主張が問題とされたものゝ、メキシコ系移民の多い南部でもトランプ優位は動かなかつた。

このことは何を意味するか。三月号の本欄でも指摘した通り、アメリカ国民の多くが国境を越えて行はれる自由な経済競争よりも国民共同体の公正な運営を求めてゐるといふことであらう。富は廻り回つて社会全体に及ぶなどといふトリクルダウン理論を振りかざし、さらにはポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)といふ美名の下で自称「弱者」に飴を与へてきた政官財学報のエリートたちに対し、真面目に働いても経済成長の恩恵を受けないどころか逆差別に苦しんできた中流層が鉄槌を下したのである。

「アメリカ第一主義」を明言するトランプは、他国への軍事的関与に消極的といふ。とは云へ「アメリカ軍の駐留を望むならば当該国が経費を負担すべきであり、出来ないのであれば軍を撤退させる」との主張は筋が通つてゐる。かうした発言に対し、ペリーの黒船が来航した時の如く動顚する手合ひもあるやうだ。しかし、先方が筋論で来るなら、こちらも筋論で対処すれば良いだけの話である。「自分たちの国は自分たちで守る、外国の軍隊に守つて頂くのは申し訳ない。ついては、支那や南北朝鮮といつた敵性国家があるため核武装もする。ロシアとの関係も日本の一存で処理する」、と。いつたい、何を恐れてゐるのか。
(金子宗徳)

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