TPP加盟交渉に対する違和感

「国体文化」平成28年5月号 巻頭言

平成二十八年度予算が成立し、国会ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を巡る審議が行はれてゐる。交通・情報インフラの発達に伴ひ、経済活動が一国の内部で成り立ち得なくなつたことは確かであり、覇権主義的政策を採る中共の経済的封じ込めといふ観点からも環太平洋諸国が経済的な互恵関係を強化することじたいに異存はない。

だが、それらは各国の事情を踏まえて段階的になされるべきであつて、今回のやうに広域的かつ包括的な協定を締結するといふ手法が適切であるか否かは別問題である。

加へて、協定で用ゐられている言語について納得できぬ点がある。政権の交渉姿勢に疑念がある。交渉参加国の合計人口は約八億人、GDPの合計額は約二十五兆円に達するが、我が国の占める割合は人口にして八分の一強、GDPにして四分の一弱にあたり、米国の次に大きい。にもかかはらず、「この協定は、英語、スペイン語及びフランス語をひとしく正文とする。これらの本文の間に相違がある場合には、英語の本文による」〔第三十条・八〕とあるのはどういふことか。メキシコやチリの公用語であるスペイン語はともかく、なぜフランス語があつて日本語がないのか。合意内容を確認したくとも、外務省の仮訳が出来たのは約三ヶ月後であつた。

また、秘密保持契約の存在を理由に、安倍内閣は交渉内容を殆ど明らかにしてゐない。「日本とアメリカがリードして、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値を共有する国々と共に、このアジア・太平洋に、自由と繁栄の海を築き上げる」と安倍首相は記者会見で胸を張つたけれども、国民の知らぬうちに国家主権に関はる重大なことが決められてゐるのではないか。そんな疑念を拭ひ去るべく、国会における徹底的な論戦を期待したい。
(金子宗徳)

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