TPP交渉合意が与へる負の影響

「国体文化」平成27年11月号 巻頭言

 去る十月五日、日米など十二の国が環太平洋経済連携協定(TPP)について大筋で合意した。これにより、工業品のうち九九・九パーセントの品目に対する関税が撤廃されるだけでなく、金融サービスをはじめ知的財産や環境保護などに関する域内統一ルールが定められ、人口にして約八億人、世界の国内総生産(GDP)の四割近くを占める世界最大の自由貿易圏が誕生するといふ。

 そも/\、人類は自他が共存共栄することにより文明を発展させてきた。より豊かで文化的な生活のために国家を形成し、時に国家の枠組を越えて交流するのは人間の本性だ。就中、運輸通信手段が発達し、ある地域で起つた出来事が世界全体に影響を与へ、グローバル企業が提供するサービス抜きに日々の生活が成り立たぬ現在、このやうな動きを全否定することは不可能であらう。

 問題は、さうした動きを推進する動機だ。今回の合意に関連して、「海外の投資家の日本への評価を高め、域内の資金が日本の都市、地方に集まり、地方の活性化が期待できる」〔甘利明TPP担当相・十月五日〕、「改革を恐れるのはもうやめませう。勇気を持つてチヤレンヂすべきです。イノベーシヨンを起し、そして、オープンな世界に踏み出すべきときであります」〔安倍晋三首相・十月六日〕などといつた政府首脳の発言が見られる。聞こえは良いが、結局のところ金儲けの機会が増えるといふ主張に過ぎぬではないか。いくら機会があらうと、それを活用できぬ人々は少なくない。結果として、経済的格差の拡大が予想される。行き過ぎた経済的格差は、同じ国家に生き、そして死ぬ「同胞」といふ意識の消滅を招きかねない。かうした国民意識に対する負の影響を安倍首相は何処まで深刻に考へてゐるのか、極めて疑問である。
(金子宗徳)

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