参議院選挙が炙り出したものーー《れい新》と《N国党》の衝撃

月刊国体文化9月号より、特別に金子宗徳編集長の論説を全文無料公開します。尚、原文は正仮名遣いを使用していますがネットユーザー向けに現代仮名遣いに改めました。

新興勢力の登場

令和最初の国政選挙となった7月21日の参議院議員選挙は、日本社会が過渡期を迎えつつあることを示すものではなかったか。

その象徴は、山本太郎の《れいわ新選組(れい新)》と立花孝志の《NHKから国民を守る党(N国党)》である。前者は元芸能人および現職参議院議員である山本を前面に押し出すことにより、後者は無名ながらも奇抜な政見放送やネット動画配信を徹底的に活用することにより、既成政党の厚い壁を打ち破った。

現行の選挙制度には、①10名以上の立候補者を擁立して「確認団体」とならねば政治活動が制約される、②立候補するに際して多額(選挙区は300万円、比例区は600万円)の供託金が求められる、などの制約があり、新興勢力の参入は困難とされてきた。

その知名度や4億円に達したという寄付金の集まり具合から前者は議席を獲得するものの、後者の議席獲得は困難だろうと思っていた。

それゆえ、本誌先月号の「編集余滴」欄で、後者について「実際に投票する者は限られるだろう」と記したのだが、比例区では4名の候補者が98万票余、選挙区では37名の候補者が152万票余を集め、参議院議員を誕生させたばかりか、政党助成法に基づいて国庫から資金が交付されることになり、私の予想は裏切られることとなった。

「勝ち組」に対する異議申し立て

兵庫県宝塚市出身の山本は、私立箕面自由学園高校在学中からテレビで卑猥なダンスを披露しており、そのまま芸能界入りした。

その後、NHKの連続テレビドラマ『ふたりっ子』で活躍する財閥の御曹司役や映画『難波金融伝・ミナミの帝王』シリーズにおける高利貸の舎弟役を演じるなどした後、その知名度を活かして6年前の選挙で参議院議員に当選した。

一方、大阪府泉大津市出身の立花は府立信太高校を卒業後、NHKに事務職員として入局。NHK職員の乱脈ぶりを目の当たりにしたという。その後、不正経理を週刊誌に告発したところ、依願退職に追い込まれ、さらには精神疾患に悩むなどの紆余曲折を経てきた。

いずれにしても、いはゆる「勝ち組」ではない。

確かに山本はスポットライトを浴びていたが、NGT48や吉本興業を巡る騒動を見ても、結局のところ芸能人など事務所のコマに過ぎず、都合が悪くなれば切り捨てられる存在だ。

真の「勝ち組」とは、交通事故を起こして多くの死傷者を出したにもかかわらず、逮捕どころか未だ起訴さえされていない元高級官僚に象徴される階層である。

両者の主張は、そのキャッチフレーズ「ロスジェネを含む、全ての人々の暮らしを底上げします!」(れい新)、「令和の百姓一揆」(N国党)からして、「負け組」を意識したものである。

具体的な政策は、どうか。

新左翼党派との関係が取沙汰されている《れい新》は「消費税ゼロ」「奨学金徳政令」「最低賃金の時給1500円への引き上げ」「デフレ脱却給付金」といった社会民主主義的な経済的弱者救済策に加え、「国土強靭化」や「日米地位協定の見直し」といったナショナリズム的要素も織り込んだ、一種の国民社会主義に基づく政策パッケージを提示している。

そのため、リベラル層のみならず、小泉改革以来の新自由主義に疑念を抱く一部の保守層からも支持を得た。

一方の《N国党》は、「NHKのスクランブル放送化(=見たい人からだけ受信料を徴収するシステムの導入)」のみを訴え続けた。

《れい新》の訴える可処分所得の大幅な増大策に比べれば些細なものだが、《N国党》の訴える受信制度の抜本的な改革もまた「負け組」の日常生活に直結する経済問題だ。NHKの受信料は、地上波のみで月額1300円、衛星放送を含むと2230円だ。高いとはいえないが、決して安いともいえないだろう。

その上、編集権を振りかざして偏向放送を垂れ流し、さらには職員の平均給与が1千万円以上に上るというのだから、受信料を素直に払いたくないと思うのは人情だ。

こうした両党に対し、《れい新》の主張は財源の裏付けのないポピュリズムであるとか、シングル・イシュー政党としてNHK問題以外の政策を示さない《N国党》は無責任であるといった批判が見られる。

このような批判は「正論」だが、確信犯たる両党は何の痛痒も感じまい。さらにいえば、「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれる就職氷河期世代の利益を代弁したり、「公共放送」という美名の下、実質的には民放以上の巨大メディアと化したNHKにメスを入れるべきと主張したりすることは、そうした優等生めいた批判など吹き飛ばすほどの大きな意義があろう。

両者の手法について

「負け組」からの支持を集めようとした両党であるが、その手法は対照的だった。

《れい新》は、(選挙区の合区であぶれた議員を「裏口」から当選させるために自民党主導で設けられた)比例区の特定枠から重度の身体障碍者を2人も担ぎ出し、彼らを国会に送り込もうという「感動物語」を作り出す。

結果として、山本は落選したが、2人は当選した。

その後、2人は登院中の介護費用を巡って問題提起を行い、物議を醸した。この点については本号で宮田昌明も批判しているが、手法の是非はともかく、当事者の2人が山本を「利用」しようという思惑さえ認めた上で自党の拡大へと繋げていく「したたかさ」を同党に感じる。

「したたかさ」という点では、《N国党》も同様だ。

先にも述べた通り、同党は比例区のみならず選挙区にも候補者を立てたが、それは当選を狙ってのことではなく、自党の存在を知らしめ、比例区における投票を促すためである。

このような手法は《維新政党新風》を始め議会進出を目指す他の政治勢力でも採用されて きたが、資金力の限界もあり、8ないし9の選挙区がせいぜいであった。

これに対し、同党は全都道府県の3分の2超にあたる37の選挙区に候補者を立てている。各候補者は趣向を凝らした政見放送を行い、党の知名度を高めた。さらに、NHKを通じて全国で放映される比例区の政見放送で立花がNHK職員の性的醜聞を声高に語り、「NHKをぶっ壊す」と叫んだ。

その映像はインターネットの動画サイトを通じて拡散され、300万回以上も再生されたという。

先述の通り、同党は比例区も合わせて41名の候補者を擁立したが、そのために必要な供託金・1億3500万円の大半を高利の借金で賄った。もし全員が落選したなら、忽ち借金で首が回らなくなるわけで、大きな賭けといわねばならぬ。しかし、立花が当選したため、議員歳費などで返済することが可能となった。

さらに、同党 は存在感を高めるべく、曰くつきの無所属議員との連携を進めたり、憲法改正とバーターでNHK改革に協力するよう自民党に秋波を送ったりなど奇策を打ち続けている。

一方、8月4日に行われた千葉県柏市の市議会議員選挙で公認候補を当選させるなど、草の根的な動きも展開していくようだ。

両者の今後を予測する

来たる衆議院議員選挙に「消費税5%」を掲げて100人の候補者を立てたいと山本が口にするなど、《れい新》は安倍内閣打倒運動の主導権を握ろうと考えているようだ。ただ、かつて本山貴春が本誌に連載していた「共同体の遺伝子」で指摘した通り、選挙で勝利するためには「基盤」となる「互助組織」が必要だ。

そうでなければ、「互助組織」に支えられた他党派に埋没してしまう。けれども、その点を巡る《れい新》の方向性は見えてこない。というより、「互助組織」がないからこそ世間の耳目を引く発言を繰り返していると見るべきか。

また、先ほども指摘したように《れい新》の政策は国民社会主義的であるが、新左翼党派と の関係からして社会民主主義に傾く可能性が高く、その場合は保守層の離反を招くだろう。

一方の《N国党》は、地方議員を当選させていくなど「互助組織」の形成を志向しているようだ。ただ、気になるのは、同党がシングル・イッシュー政党である点だ。

NHK問題以外の対応は各自の判断に任せるというスタイルゆえ価値観の相違により党が瓦解することはないが、肝腎のNHK問題について何の成果も挙げられなかったら存在意義が問われる。

《N国党》の「賞味期限」は長くて(立花が改選を迎える)6年後の参議院選挙までと見るべきだろう。今回の選挙結果を受け、NHKも危機感を強めており、ウェブサイトなどで自己正当化に努めている。

また、現時点で は、《自民党》を始め各党もNHKに対しては及び腰だ。下手をすると既存メディアとの全面対決へと発展し、自党に不利な報道をされかねないと危惧しているのだろう。

だが、ネット動画配信を通じて、既存メディアを介さずとも自らの主張を有権者に伝えられる立花は、NHKとの対決を恐れていない。ただ、受信契約は行った上で敢えて一部を払わず、法廷闘争に持ち込むことにするなど戦術の修正を図っているようだ。

首尾よく「NHKをぶっ壊す」ことに成功した暁には、立花は議員を辞職すると宣言している。そうなると、《N国党》は解党ということになろう。

しかし、それまでに少なからぬ地方議員が誕生しているはずだ。彼ら彼女らのうち「NHKをぶっ壊す」以外の政治的信念を持つ者は、独自の活動を展開していくはずだ。

《N国党》の関係者には保守的な心情も少なくないとのことで、そこに、《れい新》を支持してきた一部の保守層などが合流して新しい政治勢力が生まれる可能性もある。という訳で、今後とも両党の動きに注視していきたい。(了)【文中敬称略】

金子宗德(かねこ・むねのり)/月刊「国体文化」編集長、里見日本文化学研究所所長、亜細亜大学非常勤講師。

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『国体文化』令和元年9月号
参議院選挙が炙り出したもの/金子宗德
戦前日本の経済学と第二次世界大戦」(上)/牧野邦昭
本当に改革しなければならないのは大学だ/井上寶護

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