「国体」に対する深い信と歴史に対する広い目配りを

『国体文化』(平成24年5月号) 巻頭言

「女性宮家」の創設を巡る有識者ヒアリングが始まつた。首相官邸のホームページに当日の配付資料や議事録が掲載されてゐるので一読したけれども、各人の専門分野と「国体」との関係が意識されてをらず、正直云つて物足りない。

「女性宮家」の創設にせよ、「旧皇族系一般国民男子」への皇籍付与にせよ、皇族の在り方として異例変格であることは否定できぬ。しかしながら、現実問題として皇族男子の数が減少しつゝある以上、非常の手段を採用するより他にない。問題は、それが(国家の究極的基盤体である)「国体」に適ふか否かだ。

天皇の御位を継承し得る「皇族」の身分は、一般国民と厳密に区分される必要があらう。如何なる理由であれ臣籍降下した以上、皇族への復帰に対しては慎重であることが望ましい。それは、君臣の分を破壊するのみならず、その過程で権力者の恣意的な政治介入を招きかねないからだ。

仁和三(八八七)年に光孝天皇が瀕死の病に倒れられた際、関白であつた藤原基経は、元良親王(前代陽成天皇の第一皇子)など他に皇族男子が居られたにもかかはらず、光孝天皇の第七皇子ではあるが臣籍に下つてをられた源定省の皇族復帰を図り、皇太子(後の宇多天皇)として擁立し奉つた。この事例は臣籍降下された方が天皇に即位された先例として取り上げられるけれども、その背後における藤原氏の専横振りと合はせて考へねば片手落ちである。

皇室典範は皇室の「家法」であると同時に、天皇は「領ク」論理に依拠した私的支配者ではなく、「知ラス」論理に依拠した公的統治者である。「女性宮家」創設に対する賛成・反対の如何を問はず、天皇を中核に戴く「国体」に対する深い信と過去の歴史に対する広い目配りを忘れてはならない。

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