「皇太子」とはいかなる御存在か(下)/金子宗徳

令和2年4月に行われる「立皇嗣の礼」に関連して、月刊国体文化2月号より、金子宗徳編集長による『「皇太子」とは如何なる御存在か』が連載されている(全3回)。その第3回目の記事後半を無料公開する。

 「側室」復活論の愚

江戸時代以前の皇位継承においては、どなたが「天皇の御生母」であるかということが政治的に大きな意味を有した。そのため、権力者は競って自らの子女を入内させ、皇子を産ませようとした。

その最たるものは公家の頂点を占めた藤原氏による摂関政治だが、平清盛や徳川家康といった武家の権力者も自らの子や孫を入内させている。

逆に、生母の実家に政治力がないと、第一皇子であっても「皇太子」とされない、あるいは「皇太子」と定められても廃太子される。これは、現実の統治機構が一部の公家や武家によって私物化されており、天皇ですら権力者の意向を無視し得なかつたためである。

それに関連して、「側室」復活論について一言しておきたい。男系による皇位継承の護持を主張する者の中に(ごく一部であるけれども)「側室」制度の復活を唱える者がある。

曰く、動物行動学の見地からは正しい、また曰く、一夫一妻制は西洋(キリスト教)に由来するもので日本古来の制度ではない。

そうした主張は、一面においては事実である。いくら法律で夫婦の貞操義務を定めようとも、配偶者以外と性交する者は少なくない。また、明治の皇室典範には庶子の規定が存在し、明治天皇は「側室」との間に皇女を儲けられた。

しかしながら、大正天皇は「側室」を置かれず、昭和天皇は女官制度の改革により「側室」制度を廃止された。さらには、現行の皇室典範は庶子の存在を想定していない。

仮に「側室」制度を復活したとして、進んで「側室」たらんとする女性、「側室」の存在を前提として后妃たることを受け入れる女性が居るだろうか。たとえ存在したとしても、そうした女性の存在を前提とする天皇や皇族を国民が仰ぐであろうか。

さらに云えば、「側室」の近親者が非公式に影響力を行使する可能性もある。安倍首相夫人の言動を巡って様々な憶測されているが、同様の疑いを招くだけでも、皇室の尊厳が傷つくことは云うまでもない。

「側室」復活論者は、そこまで考えて発言しているのだろうか。

皇位継承有資格者の配偶者に求められる資質

遠い将来のことはいざ知らず、現代に生きる私たちは、大正天皇・昭和天皇の叡慮を踏まえ、一夫一婦制を前提に皇位継承有資格者の配偶者について議論すべきだ。

現行の皇室典範を見ると、皇位継承資格は皇族男子のみが有するとした上で、「立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する」(第10条)と定められている。

これは、婚姻が「両性の合意のみ」に基づくと定めた日本国憲法第24条と矛盾するが、皇位継承資格を有する特別な方であるがゆえの例外規定と解するべきであろう。

現時点で皇位継承順第二位の悠仁親王殿下は、本年9月6日に14歳の御誕生日を迎えられる。御父君であられる文仁親王殿下は25歳で御結婚されており、あと10年もすれば然るべき方と御結婚という運びになるかもしれない。

皇位継承有資格者の配偶者となる方である以上、それに相応しい「体力」・「知力」・「徳力」の持ち主であって頂きたい。

中でも難しいのが「徳力」である。と云うのも、他の二者と異なり、その厚薄を判断する客観的な指標が存在しないからだ。

そもそも、「徳」とは他者との関係において正善とされる姿勢のことだが、他者とは個別的な存在であり、その資質も様々だ。そのような相手の資質に合わせ、正善なる言動を為すには、自らの内部に明確かつ一貫した原理を持ち、その上で如何なる相手に対しても変はらぬ姿勢で接することが求められよう。

もちろん、これは皇位継承資格を有する皇族男子の配偶者たる女子のみならず、皇族女子の配偶者たる男子にも求められることは云うまでもない。

一見したところ好人物を装ひつつ、母親の結婚詐欺めいた行動を制するどころか後押ししていたという報道が事実であれば、当該男性は皇族女子の配偶者として相応しいと云えるだろうか。

残された時間は少ない上に…

愛子内親王殿下は、昨年12月1日に18歳を迎えられた。男子であられたならば、成年を迎え、立太子の礼に臨まれる御年齢だ。

さらに、再従姉妹に当たる千家典子女史や守屋絢子女史が20代半ばで御結婚されていることからして、7~8年のうちに御結婚される可能性がある。

安定的な皇位継承の方策を巡る議論は、悠仁親王殿下や愛子内親王殿下のみならず、眞子内親王殿下を始めとする未婚の皇族女子、さらには将来における皇族の配偶者、あるいは旧皇族末裔の方々に大きな影響を与えるばかりか、皇室と国民との紐帯といふ「国体」の根幹に関はる問題だ。

また、ことの性質上、何らかの形で天皇陛下の叡慮を承らねばならず、この解決には政治的な安定と強力な統率力が必要である。

その意味で、安倍首相に期待していたのだが、首相は十分な指導力を発揮して来なかつた。

漸く去る2月10日に行われた衆議院予算委員会において、菅官房長官は、山尾志桜里議員の質疑に答える形で「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」に関して「立皇嗣の礼」が終了した後に議論を本格化すると明言したものの、昨今のコロナ・ウィルス騒動、ひいては、それが引き金となった世界経済の変調への対応に追われ、静謐な環境で方向性を定めることが難しくなりつつある。

せめて、我ら民間で冷静に議論を重ねておかねばならない。

(全文は国体文化2月号〜4月号にてお読みください)

金子宗德(かねこ・むねのり)/月刊「国体文化」編集長、里見日本文化学研究所所長、亜細亜大学非常勤講師。

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