長期展望を踏まへた方策の確立を

『国体文化』(平成24年6月号) 巻頭言

「女性宮家(内親王家)」の創設を巡る有識者ヒアリングが始まつてから三ヶ月ほどが経過した。四回にわたるヒアリングを通じ、不十分ながらも漸く問題が整理されつゝある。

これまで八名の有識者によつて示された見解のうち、市村眞一氏(京都大学名誉教授)の論が傾聴に値するので紹介しておきたい。市村氏は、「天皇陛下とその御家族以外は皇族はをられない」といふ事態を招かぬための緊急的な対策 ― ①女性宮家の創設。②女性皇族が降嫁された後も称号(内親王・女王)を保持し続ける制度の復活。 ― と同時に、「さうなつた理由を少なくとも当分の間は除去できるやうな対策」を数年かけて検討した上で、臣籍降下および皇籍付与に関する「平成の準則」を定めるべきと提案してゐる。

市村氏の指摘する通り、「当面の対策を講じるのに何をするかといふことではなくて、長期展望をまづつくつて、その長期展望の下での大きな枠組みをつくって、それを今の事態にどう適用するか」といふ視点が重要ではないか。明治の旧典範でさへ、明治四十年には増補が行はれ、大正九年には「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」が制定されるなど現実に対応すべく改定が重ねられてきた。

昭和天皇により側室制度が廃止され、一夫一婦制が正格とされてゐる今日、皇室に男子が誕生せぬ可能性は以前に比して高い。まさに運任せともいふべき情況で、現に、悠仁親王殿下の御誕生まで四十一年間にわたり男性皇族の御誕生はなかつた。市村氏は養子の可能性に言及してゐるけれども、その具体的形態や養子たる要件については慎重な検討が必要だらう。皇室の「家法」である以上、最終的には勅裁を仰がねばならぬけれども、長期展望を踏まへ、陛下に御嘉納頂ける方策を献ずるのが臣子の責務である。

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