陛下の御下問に対する安倍首相の責務

「国体文化」平成28年10月号巻頭言

今上陛下が「象徴としてのお務め」に関して叡慮を示されてから一ヶ月あまり。各種世論調査でも八割から九割が譲位に向けた環境整備が必要と回答してゐる。これに対し、菅官房長官は五日午後の記者会見で「天皇陛下のご発言を安倍晋三首相が重く受け止め、しっかりと対応しないといけないとの指示を受けており、今さまざまなことを検討している段階であります」と発言した。ことは陛下の御進退に関はる以上、安倍首相の責任は極めて重大と云はざるを得ない。

一部報道によれば、皇室典範の附則に退位の規定を設け、詳細は特別措置法で定める、といふ解決策が政府内部で検討されてゐるらしいが、そもそも附則とは法令の施行期日や経過措置、関係法令の改廃などに関する事項が記された部分であり、このやうな重大事に関する規定が置かれるべき場所ではない。また、特別措置法では今上陛下御一代の異例となつてしまひ、中長期視点に立つた陛下の叡慮を蔑ろにするものだ。

確かに、強制退位の可能性を排除できぬなど譲位を制度化することは様々な問題を伴ひ、それゆゑ、明治の皇室典範さらには現行の皇室典範でも終身在位が規定されてゐる。しかしながら、高齢化社会にあつて統治の根幹に関はる新たな問題を意識せねばならぬことが当事者であられる陛下より示された以上、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」といふ第四条の改正を中心に関連する法制度の整備を図るべきだ。

陛下の宝算を考慮すれば、早急に結論を出さねばならぬ。皇位継承の問題など現行の皇室典範には改正を要すべき点が他にも存在するけれども、まづは陛下の御下問に応へることが先決だ。安倍首相におかれては、国民の政治的代表として誠実な対応を行つて頂きたい。

〔平成二十八年九月七日筆〕(金子宗徳)

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