テロ事件は他人事ではない

「国体文化」平成27年3月号 巻頭言

 「イスラム国」を自称する民兵組織ダーイシュにより、二名の日本人が殺害された。なぜ危険な戦地と知りながら渡航したのか理解に苦しむが、同じ日本人として哀悼の意を表したい。

 政府の対応について批判がなされてゐるけれども、外務省は平成二十三年四月よりシリア全土から退避するよう勧告を発してきたし、後藤健二氏に対しては三度も渡航中止を要請したといふ。また、二名の拘束が明らかになつた後も、テロリストの脅迫に屈しなかつた。軍事力が行使できぬ情況下では最善を尽くしたと云つてよい。

 ダーイシュは、我が国を十字軍の一員と見なし、日本国民に対する襲撃を予告した。邦人がイスラム聖戦主義勢力の標的となつたのは今回が初めてではない。戦地以外でも犠牲となつた例としては、アルジェリアの天然ガス施設を襲撃したイスラム聖戦士血盟団に十名の日本人が殺害された事件(平成二十五年一月)が記憶に新しい。また、日本国内でも、サルマン・ラシュディの『悪魔の詩』を翻訳した五十嵐一氏が勤務先の筑波大学構内で殺害されるといふ事件(平成三年七月)が発生してゐる。

 グローバル化が進む今日、我が国に滞在するイスラム教国からの移住者も以前に比べて増えた。今や、全国に数十のモスク(礼拝所)が存在するといふ。その大半は善良なる市民であらうが、留学生が偶像崇拝否定の信仰から仏像を破壊する事件を起こしたり、子供の学校給食をイスラム法に適ふもの(ハラル)にせよと親が主張したりといつた文化摩擦は既に生じてをり、聖戦主義勢力が日本国内で勢力を拡大する素地は存在する。もはや、テロ事件は他人事ではないのだ。
(金子宗徳)

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