似而非忠義を討つべし

『国体文化』(平成24年3月号) 巻頭言

「女性宮家」創設に関連して皇太子・皇太子妃両殿下を批判する言説が目立ち始めた。妃殿下の御療養が長引き、愛子内親王殿下の学校生活も必ずしも順調とは云へぬ情況に対する危機感からの発言であらうが、インターネット上で「廃嫡」の署名を募つたり、論壇誌において「御聖断」を求めるなど、忠義面しつゝ不敬の言動を展開する徒輩を見過ごすわけにはいかぬ。

皇族は、「常に一身を以て天皇を荘厳し、且つ天皇慈民の精神を体達して、皇室と国民との親愛敬撫の融和に貢献する」(里見岸雄『憲法・典範改正案』)ことを使命とされ、その一挙手一投足は内外の耳目を集める。その御負担たるや、我ら国民の想像が及ぶところではない。皇族といへども自然人であり、当然のことながら心身に御変調をきたされることもあらう。そのやうな場合、何よりも先に速やかなる御平癒を御祈念申し上げるのが臣子たる者の務めだ。

その上で、皇室の歴史と現状を踏まへ、将来の情勢変化に対応可能な仕組みを築き上げることが求められてをり、皇室に対する自らの願望を絶対化し、自説と少しでも異なる論者に「狡猾」などと悪罵を放つが如き態度は、皇室を戴く国民内部の亀裂を増大させるものであり、「尊皇」を称しつゝ皇室の尊貴を損なひかねない。

本年一月号の巻頭言にも記した通り、吾人は理義に基づく冷静な議論を積み重ねて参りたい。国民が天皇を扶翼し奉らうとする意志を失はぬ限り、たとへ前例のない「女系天皇」が即位しようと、政治体制や経済機構を下支へする「国体」は揺らぐことはないと、里見博士の学統を受け継ぐ吾人は確信してゐるが、時務としての「女性宮家」創設については種々の異論もあらう。それらに対しては、正面から回答を試みたい。

 

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