実系としての母系(女系)

『国体文化』(平成24年8月号) 巻頭言

去る六月六日に寛仁親王殿下(皇位継承順位六位)が薨去あそばされた。夙に論じられてゐる通り、このまゝでは皇族の減少は避けられず、皇位の継承も危ふくなる。女性宮家の創設や旧皇族系一般国民男子への皇籍賦与など対策を急ぐべきだ。日本世論調査会が六月に行つた「皇室世論調査」においても、女性宮家創設に対する賛成は六四・四%(反対は三〇・七%)、旧皇族系一般国民男子への皇籍賦与に対する賛成は四八・三%(反対は四六・六%)となつてをり、この問題に対する国民の理解は深まりつゝある。

だが、女性宮家の創設に関しては配偶者の問題があり、旧皇族系一般国民男子の皇籍賦与に関しては血統の遠さといふ問題がある。前者については何度も論じてきたので再論せぬが、後者については母系(女系)を踏まへた議論が必要だらう。確かに、伏見宮系の旧皇族系一般国民男子は、父系(男系)を辿ると四十数親等も離れた傍系である。しかしながら、所功氏も近著『皇室典範と女性宮家』で指摘してをられるやうに、明治天皇の内親王が降嫁せられた竹田宮・北白川宮・朝香宮・東久邇宮の各宮家は、母系を考慮すると他の宮家より今上陛下に近い。就中、東久邇宮には昭和天皇の内親王も降嫁され、その流れを汲む東久邇家の現当主(信彦氏)は今上天皇の甥(三親等)にあたり、今上陛下の従弟(四親等)にあたる寛仁殿下より近親だ。女性宮家の当主と想定される女性皇族より今上陛下に近い血統を有する独身男性も居られるといふ。女性宮家を創設する場合も、この点は十分に考慮されるべきだらう。

子は父母なくして生まれない。父系(男系)による皇位や宮家の継承を正格としつゝも、母系(女系)もまた実系であるといふ天地自然の理を忘れてはならぬ。

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