【書評】『平泉澄博士神道論抄』(錦正社)

神道人としての平泉澄

東京帝国大学文学部で日本中世史の研究を続ける傍ら、皇国護持のために啓蒙活動を行つた平泉澄。この度、平泉の神道に関する論文や講演録を集めた一書が刊行された。

平泉の生家は福井県の平泉寺白山神社。養老元(七一七)年に創建された同社は白山信仰の拠点であり、神仏習合が進んだ平安時代中頃からは霊応山白山寺と呼ばれるやうになつた。最盛期には多くの社殿や僧院が立ち並び、多数の僧兵が居たといふが、その大半は天正二(一五七四)年の大火で焼失した。さらに、明治初期の神仏分離政策によつて白山寺は廃止されて白山神社といふ当初の形に戻り、現在は鬱蒼たる木々に覆はれた広大な神域に江戸時代に再建された社殿などが建つばかりだ。交通の便も決して良いとは云へぬため参拝客も多くないやうではあるものゝ、却つて俗化してをらず荘厳な印象を与へる。

本書には計十九篇が収められ、神道そのものおよび神道と国家との関係に関するものをまとめた「Ⅰ 神道総論」、神仏習合また分離の意義に関するものをまとめた「Ⅱ 神社の歴史」、歴代天皇の御聖徳に関するものをまとめた「Ⅲ 歴代の御聖徳」の三部に分けられてゐる。また、巻頭には装束を身にまとつた平泉の写真などが収められてをり、歴史研究者であると共に神道人でもあつた平泉の姿を窺ひ知ることができよう。

「神道」とは如何なるものか

そもそも、平泉にとつて「神道」とは如何なるものか。

「神道の本質」といふ講演において、栂尾の高山寺を開いた明恵に言及した平泉は、明恵が『古事記』を華厳の教理を以て解き明かすだけでなく、承久の乱において敗北した後鳥羽上皇方の遺族を北条氏の圧力に屈さずに匿つたり、隠岐に流された上皇から金泥で書かれた三尊仏を授けられたことなどを挙げ、「日本の神道を理解するためには、明恵上人の教へをうけなければわからない」と主張する。

また、戦前の神道は国家の保護を受けてゐたといふ批判に対し、「神道は国家の保護を受けて伸びたのではない。国家をお守り申し上げる。逆なんです」と反論し、「この考へに神道は立たなくちやならん。われわれは、国の保護を要求すべきものではない。国をお守り申し上げることを考へなくちやならぬ。そして、これによつてはじめて、神道も神道として生き、日本の国も国として生きる」と説く。

さらに、自らの神秘体験に触れつつ、「神様がおいでになるといふことを、確信しなければならぬ」と強調して已まない。

要するに、神霊の存在を信じ、日本国家のために祈り、「道」を貫かうとする営みは、その宗派の如何を問はず「神道」と呼ぶべきと平泉は考へてゐるやうだ。

国体と皇学

こゝで問題となるのは「道」の内実であり、だからこそ「学」が重要となる。

「皇学指要」において「我が国の先哲は、我が国の道が実に国体より出づる所であり、その淵源は国初に遡り、その実修練磨向上開展が、我が国の歴史に外ならぬことを看取し、道破し、体得し、実証した」と述べる平泉は、『弘道館記』や『中朝事実』の記述を引き、一つには「立極」すなはち「天皇が、全国民団結の中心であり、全国民統合の根原であり、その敬愛の対象であり、その賞罰の基準であり、その運動の目標であり、指揮の主権である」こと、もう一つには「垂統」すなはち「天皇の御位は、垂統の二字に表現せられたる如く、ただ一系に相続せられて万世に伝へられ、絶えて革命を許さない」こと、この二つこそ我が国体の特質であると論ずる。

かうした「国体の中から出て来、国体の線にそうて発展してゆくを正しとし、国体外から出て、国体に矛盾し背反するを正しからず」といふ価値判断を下すためには、新たな「皇学」を確立する必要があらう。この新たな「皇学」について、平泉は「曾ては記紀万葉、『令義解』、『延喜式』等を、主として其の研究の対象としたが、それは拡げて国史の成迹全般に及び、御歴代の宸記、諸家の日記、数多き勅撰和歌集より、更に承久・建武の遺文を捜り、『禁秘抄』についで『神皇正統記』、下つて水戸の『大日本史』、更に山崎闇斎及び其の門下の著述、山鹿素行の『中朝事実』、そして橋本景岳、吉田松陰、真木和泉守、更に佐久良東雄、橘曙覧等を経て、明治大正の諸家を吟味しなければならぬ。その点従前国学と呼ばれたる範囲よりは、いちじるしく其の区域をひろくするであらうが、しかも其の程度に止まらずして、和漢欧米の歴史、思想、学問一切が、積極消極、もしくは加減賛否の何等かの意味に於いて関係を持つであらう」と記すが、かうした問題意識は里見岸雄が大成した「日本国体学」と共通する部分も多く、非常に興味深かつた。

金子宗德(かねこ・むねのり)里見日本文化学研究所主任研究員

『国体文化』(平成26年10月号)

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