天智天皇と戦後復興~白村江敗戦から近江遷都へ~

■第44回国体文化講演会講演録
東洋大学文学部日本文学文化学科非常勤講師・文藝評論家 山本直人
古典と現代との接点

先ほど紹介に与かりました山本と申します。今回このような形で、伝統ある日本国体学会での登壇の機会を賜り、大変光栄に感じております。

私自身は古代史や現代史の専門家ではなく、大学時代は国文科の一学生として日本の古典を愛読し、その後大学院では日本浪曼派の研究を続け、今日まで昭和期の文藝批評を中心に学んで参りました。そんな経緯もあり、いささか大風呂敷なテーマを選んでしまったこともあり、果たして里見岸雄博士が提唱された「国体学」に即したお話ができるかどうか、心もとない有様ですが、本日は自分がこれまで学んできた範囲で古代史と現代史との意外なつながりを見出し、新たな視点を提供することができればと考えております。

これまで私は、古典と現代文学との接点に関心を抱いてきました。とりわけ天平時代を昭和史に重ねた保田與重郎の『萬葉集の精神』、大津皇子の変を二・二六事件になぞらえた折口信夫の『死者の書』は、今回のテーマを進めるにあたり、大変啓発を受けた作品です。

本来ならば「戦後七十年」ということで、戦後史に即したお話をすべきかもしれませんが、ご周知の通り、現在多彩な形での戦後論が出版されております。そうした中で、 果たして自分がそれらを凌ぐような新たな形での戦後論を展開できるのか、とても確信はなく、かといって私自身は古代史や上代文学についての専門家ではありません。むしろ古代と現代との図らぬ接点を見つめることで、これまでとは違った角度から戦後史を見直すことができるのでは、というのが今回の講演での試みとなります。

現在、経歴的には日本の近代文学が専攻ということになっているのですが、大学時代はもともと古典を徹底的に勉強したいという気持ちがありまして、『源氏物語』とか『伊勢物語』の授業を受けました。その後に、桶谷秀昭先生の「日本語論」という授業をお聴きしたことが、私のその後の歩みを考える上でも決定的な出来事となりました。それは、歴史的仮名遣いと『萬葉集』の講義だったのですが、この授業から、古典文学というのはこれだけ非常に魅力的に読むことができるということを教わりました。桶谷先生との出会いが、現在の私の専攻である、日本浪曼派と批評文学に道を求めるきっかけとなったのです。

というわけでして、本日は古典に行ったり、現代に戻って来たりということで、少々混乱されるかもしれませんけれども、できるだけわかりやすくお話しできればと思っております。

 大東亜戦争と白村江

今回私が注目したのは、古代史における白村江の戦いです。

先の戦争での日本の敗戦、それは我が国の歴史上、未曽有の敗戦だったといわれます。しかしながら、こういった未曽有の敗戦は、実は古代においてもありました。それが今回お話しする白村江の戦いです。白村江の戦いというと、皆さんはどう認識されていますでしょうか。多分、中学校の教科書にはどれだけ出ているか。私自身は記憶がございません。ただ、高校に入って日本史を選択してから、初めて白村江の戦い、壬申の乱ということを学んだ記憶がございます。今の教科書でも取り上げられているかもしれません。ただ、たった一行で済ましてしまって、果たしてこの戦いにどれだけ意味があるのかということをなかなか深く学ぶ機会もないまま、前に進んでしまっているのが現状なのではないでしょうか。というわけで、今回は白村江の戦いについてご存じない方でも、できるだけ初めからお話ししたいと思います。すでによくご存じの方は、復習のつもりでお聞き流しいただければ幸いです。

この白村江と大東亜戦争の敗戦について、注目したのは決して私が初めてではありません。実は何を隠そう、昭和天皇ご自身が先の大戦で日本が敗れた際に、白村江からの戦後復興ということで、天智天皇の御事蹟に注目されているわけです。ですから、昭和天皇がどういった経緯で白村江に注目されたのか、それがいかに戦後復興の現在に結びついてきたのかということを含めながら、お話しできればと思っております。

 近江遷都の謎
白村江の戦いは、今から約千三百五十年前になります。古代史上における対外的な危機、日本が初めて経験する……

……… ………
続きは月刊『国体文化』平成27年7月号をご覧ください。ご注文はこちら>>

(続く見出しのみ公開・全38頁)

二つの敗戦復興
〝現代史〟としての古代史
白村江の戦いとは
国定教科書と白鳳時代
白村江敗戦までの経緯
大津京遷都の謎
蒲生野と萬葉歌
古代東アジアの国際情勢
幻の〝さざなみの都〟
近江朝の諸改革
天智天皇の史的評価
近江神宮と敗戦復興
昭和天皇と新日本建設
「国家十年」から「国家千年の大計」へ

(「国体文化」平成27年12月号22~59頁所収)

■講師紹介
【講師略歴】山本直人(やまもと・なほと)
昭和四十八年生まれ。東洋大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期課程修了。専攻は近代批評文学、日本思想史。東洋大学東洋学研究所客員研究員、国際日本文化研究センター共同研究員を経て、現在、東洋大学非常勤講師。文藝同人誌『昧爽』主宰。水戸史学会会員他。主要論文に「龜井勝一郎『日本人の精神史研究』への軌跡」(『東洋学研究』第47号)ほか。日本浪曼派周辺の文学者を軸に、古典と現代との接点、風土と文学について考究してゐる。

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