「国体文化」平成27年6月号 巻頭言
米国東部時間の四月二十九日、安倍首相は連邦議会の上下合同会議で演説を行つた。自身のみならず日本が米国と深い絆で結ばれてきたことを振り返り、第二次世界大戦における米国の戦歿者に哀悼の意を示した安倍首相は、今日の両国関係を「希望の同盟」と自賛する。
安倍首相が「太平洋から、インド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。そのためにこそ、日米同盟を強くしなくてはなりません」と述べるやうに、中共の軍事的圧力が強まる今日、安全保障面で米国との協力関係を強化することは重要だ。
けれども、経済面については大きな疑問が残る。安倍首相は「日本と米国がリードし、生ひ立ちの異なるアジア太平洋諸国に、いかなる国の恣意的な思惑にも左右されない、フェアで、ダイナミックで、持続可能な市場をつくりあげなければなりません」とTPPの意義を力説し、農協改革や規制緩和の成果を誇らしげに語るが、国家の影響力を排除しさへすれば「フェアで、ダイナミックで、持続可能な市場」が本当に生まれるのか。多国籍企業の利益追求の場と化し、一般国民の生活が破壊されるだけではないのか。
それ以上に疑念を抱かざるを得ないのは、「人口減少を反転させるには、何でもやるつもりです」といふ一節だ。「男は仕事、女は家庭」といふ性別役割分業に代はる社会システムを目指すといふことぐらゐならともかく、移民の積極的受入れを図るといふことなら容認し難い。
いくら安倍首相が「ただ前だけを見て構造改革を進める。この道のほか、道なし」と煽り立てようとも、そんな世界に希望を見出すことはできないからだ。
(金子宗徳)