「身をお慎みになる」とは

『国体文化』(平成24年9月号) 巻頭言

里見岸雄博士は、「大日本国皇室典範案」(昭和37年)において、「常に一身を以て天皇を荘厳し、且つ天皇慈民の精神を体達して、皇室と国民との親愛敬撫の融和に貢献すること」を皇族の使命とし(第24条)、その遵守すべき義務として、「皇族としての品位保持」、「国民内部の対立抗争に関する意見表明の禁止」、「民間からの報酬受領の禁止」、「住所・営利活動・公職就任・国外旅行に対する制約」などを挙げ(第28条)、使命の遂行や義務の遵守を可能ならしめるべく、皇族費の支出を始めとする種々の特典を規定してゐる(第32条)。これらの規定は明治皇室典範および(その下位法たる)皇室身位令に倣つたものだが、一視同仁の見地から(政治的対立や経済的競争の)どちらか一方に肩入れせぬといふ天皇統治の理念に基づくものだ。さうである以上、旧皇族系国民男子に皇籍を賦与するに際しても、それ以前の御活動が一連の理念に抵触せぬか十分に検討されねばならない。

元宮内府次官の加藤進氏は、『祖国と青年』〔昭和59年8月号〕掲載のインタビュー「戦後日本の出発」の中で、皇籍離脱を余儀なくされた邦家親王流十一宮家について、「皇族を下られるにつきましても、宮内省としては全力を尽くして充分な生活費をお与えし、品位を保つだけの費用は用意いたすつもり」、「万が一にも皇位を継ぐべきときが来るかもしれないとの御自覚の下で身をお慎みになっていただきたい」と重臣会議で鈴木貫太郎元首相に述べたことを明かしてゐる。こゝで問題となるのは「身をお慎みになる」といふ表現だが、単に醜聞の対象とならぬやうにといふことではなく、一方に肩入れして他方の批判を受けるが如き御活動を抑制されるやう御願ひしたものと解すべきであらう。

金子宗徳(かねこ・むねのり)里見日本文化学研究所主任研究員

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