【明治の英傑たち】西郷隆盛(1)日本を救った「西郷の革命」

道は天然自然の物にして、人は之を行ふものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給ふゆゑ、我を愛する心を以て人を愛する也。(敬天愛人)

『西郷南洲遺訓』の中でも、とりわけ有名な一節である。

この『遺訓』は、酒井忠篤(ただずみ)元藩主ら庄内藩の関係者が明治3(1870)年から半年ほど鹿児島に滞在し、西郷隆盛から受けた教えをまとめたものだ。

どうして、彼らは東北の鶴岡から南九州の鹿児島まで足を運んだのか。その背景には、西郷と庄内藩との深い因縁について語らねばならない。

庄内藩を救った西郷

時は幕末の慶應3(1867)年12月。

徳川慶喜が大政を朝廷に奉還し、「王政復古の大号令」も発せられたが、政局の帰趨は未だはっきりせず、徳川側と薩長側とが睨み合う状態が続いていた。

同月25日、西郷の指示により江戸市中を荒らし回る薩摩藩の動きに業を煮やした庄内藩士が三田の薩摩藩邸を焼き討ちする。この知らせが上方に伝はり、翌年1月3日の鳥羽・伏見の戦いに繋がった。

続く戊辰戦争において、庄内藩は会津藩と共に「朝敵」とされ、両藩の赦免を求めて奥羽列藩同盟(後に越後長岡藩などが加盟して奥羽越列藩同盟に拡大)を結成した東北諸藩と共に、錦旗を掲げた薩長側と激しく交戦した。

戦争終結後、辛酸を嘗め尽くした会津藩とは違い、庄内藩に対する処分は寛大なものであった。

これは西郷の意向によるものと云われ、庄内藩における西郷の声望は高まり、先述の鹿児島訪問にと繋がる。

なぜ、西郷は庄内藩を救ったのか。

「朝敵」という立場に追い込んだことに対する「罪滅ぼし」のつもりかもしれない。

少なくとも、「奥州皆敵」と密書に書いたことが露見して仙台藩士に殺害された長州の世良修蔵(この事件が戊辰戦争の直接的な契機となった)なぞとは全く異なっている。

日本を救った「西郷の革命」

こうした西郷の「優しさ」を支えたのは、「敬天愛人」という生き方ではなかったか。

冒頭に掲げた一節のように整理されたものではなかったにせよ――橋川文三は、キリスト者であつた中村敬宇(正直)の思想的影響を見出している(「『西郷隆盛紀行』あとがきに代えて」)――が、江戸無血開城を巡る勝海舟とのやりとり一つ見ても、勝者及び敗者という政治的立場の相違を超えて他者に向けられる「仁愛」というものが横溢している。

あの時の談判は、実に骨だつたヨ。官軍に西郷が居なければ、談はとても纏らなかつただらうヨ。……
さて、いよいよ談判になると、西郷は、おれのいふ事を一々信用してくれ、その間一点の疑問も挟まなかつた。「いろいろむつかしい議論もありませうが、私が一身にかけてお引受けします」西郷のこの一言で、江戸百万の生霊も、その生命と財産とを保つことが出来、また徳川氏もその滅亡を免れたのだ。もしこれが他人であつたら、いや貴様のいふ事は、自家撞着だとか、言行不一致だとか、沢山の兇徒があの通り屯集して居るのに、恭順の実はどこにあるかとか、いろく喧しく責め立てるに違ひない。万一さうなると、談判は忽ち破裂だ。しかし西郷はそんな野暮はいはない。その大局を達観して、しかも果断に富んでゐたには、おれも感心した。……
この時、おれがことに感心したのは、西郷がおれに対して、幕府の重臣たるだけの敬礼を失はず、談判の時にも、始終座を正して手を膝の上に載せ、少しも戦勝の威光でもって、敗軍の将を軽蔑するといふやうな風が見えなかつた。

勝海舟は、『氷川清話』の中で上記のように振り返っている。もし、この談判が決裂していたならば、どうなったであろうか。

明治天皇を戴く薩長側と輪王寺宮(後の北白川宮能久親王)を戴く徳川側との間で、戊辰戦争を遙かに凌ぐ規模の内戦が展開されたに違いない。

そうなれば当然、西洋列強の介入を招くことは必定であり、必ずや亡国の危機に陥った筈だ。

内村鑑三が云う通り、「ある意味で1868年の日本の維新革命は、西郷の革命であったと称してよい」(『代表的日本人』)であろう。

(つづく)

金子宗德(かねこ・むねのり)里見日本文化学研究所所長/亜細亜大学非常勤講師

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