日本は世界を救はなければならぬ

日本国体学会総裁・法学博士 里見岸雄

『神武天皇と八紘一宇』 (昭和十五年十月・日本国体学会)より抜粋

皇紀二千六百年の感激の中に追憶を新にしたる「八紘一宇」の皇謨は、今や電の如く日本国民の心を撃ち、油然として国体的自覚を喚起し来つた。遠く太古に遡れる日本国民は近く太新に潤歩せざるべからず、世界は悩み疼いてゐるのである。看よ、二十数億を算うる人類の世界は、わずかに五七億の白色民族豺狼の餌食として搾取支配せられ恨みは諍ひを生み、妄情は隔意を生じ、猜疑相酬し、侮慢相報じ、闇々として考究の苦海に沈み、反覆曷を測らざる頽乱の極に在るではないか。人類の世界は果たしてこれでよいのか。否、否、世界は全人類の世界であつてひとり白色民族の世界ではない。白を尊しと為し、黄黒を卑しとするが如き妄想邪謂は未だ人類の正義に識らざるに基く。二千六百年悠久の歴史を積んで、古今東西のあらゆる文化を統合統一し、国力を養つて世界の最高峰に登りたる神州日本帝国は、今や世界救済の天業を宇内に恢弘すべき時を迎へたのである。「八紘一宇」の霊想は全人類を同胞とし全世界を一家とする世界救済の大法であつて、皇国日本の国力は、まさに世界救済の聖力として発動されなければならぬ。果然!盧溝橋の銃声一発は千古の対戦支那事変を誘発し、遂に清国日本をして、聖戦の自覚と東亜新秩序建設の誓願とに住せしむるに到つた。これ日本国体の霊動だ、これ日本国体の霊発だ、今や世界は、はじめて絶対平和の曙を迎へたのである。

日本は世界を救はねばならぬ、それが日本建国の目的である、世界を救はんが為めの故われらは先づ東亜に新秩序を建設せんとするのである。若しそれ日本国民にして、「八紘一宇」の実現を確信すること能はずこれを一種の空想とする者あらば、开は啻に神武天皇の宏謨を蔑し奉るのみならず日本国体を冒涜し且は己れを卑小にする者にほかならぬ。

天皇の国日本は、確に世界を一家たらしむる大願の為めに地上に存在する霊国である、見ずや世界の客観的情勢は刻一刻その無数なる分裂闘争、対立拮抗を解消して大同団結以て国債の正義と和平とを齎すに非ずんは遂に人類生存の道なきを自覚しつゝあるではないか。歴史の必然性を把握して世界の運命を卜せんか、欧洲は遂に一個のブロツクたり、アジアも一個のブロツクたり、南北アメリカも亦一聯のブロツクたり、而して欧亜にまたがる赤露聯邦も亦おのづから独立のブロツクたるべく、世界は一先づ這箇の四大ブロツクに整理さらるであらう。四大ブロツクの結成は混とん雑乱帰する処を知らざりし世界に中間的統一を与ふるものではあるが、然も此の四大ブロツクは猶ほ世界窮極の安住相たるに足りない。世界は四箇の世界観を以て対立し、四大政治原理を以て拮抗しつゝその矛盾の極まる時、更に最後の一大決算を余儀なくせられるであらう。四大ブロツクの成立は此の意味に於てまさに「八紘一宇」への最後の段階だといはねばならぬ。

世界史の総決算たる四大ブロツクの激突、雄大なる八紘一宇秩序の建設は、かくして、我らの世紀に刻々その巨歩を進めつゝある。若しそれ天運催し来る処時運の促し来るところ日本一蹶挺身火に赴き以て建国数千年の宿願を成就せんとするならば我等はすべからく皇国をして、世界第一の強国たらしめなければならぬ、「高度国防国家」は猶ほ消極的である。よろしく日本は世界の強覇を完制するに足る「神武国家」たらねばならぬ。日本をして、かの消極的国家より神武日本への飛躍せしめよ。神武は単なる武の強にあらず、人類古今の文化を統合統一し、中外の道義観を帰一諄化し、世界第一の思想力、世界第一の道義力、世界第一の科学力、世界第一の経済力、世界第一の精神力を具備する事を予想したものだ。

ああ太古、神武天皇の宣誥は、太新、東亜新秩序建設の天業に華さき世界の中、八紘一宇進軍の局は洋々として起り征馬連りに嘶きて陣営の霜を破る、将士惨として驕るべからず、である。

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